最終更新日:令和3(2021)年9月30日
引渡した目的物が、種類、品質または数量に関して、契約の内容に適合していないことを「契約不適合」(改正前民法の「瑕疵」と概ね同じ意味です。)といいます。
例えば、雨漏りはないとして既存住宅の売買をしたのに、引き渡された建物に雨漏りがあった場合、品質に関して契約の内容に適合していない「契約不適合」があるということになります。
他方、経過年数による建物・設備等の品質・性能の低下は、既存住宅としての品質等が契約の内容となっていますから契約不適合には該当しません。また、雨漏りが建物の引き渡し後に後発的原因によって発生した場合も、引渡し時の建物に品質等の不適合はなかったわけですから、契約不適合には該当しません。
1 契約不適合責任を追及するには
売主は、契約内容に適合した目的物を買主に引き渡す義務がありますので、引き渡した目的物に契約不適合がある場合には、買主は売主に対して、完全な履行等を求めることができます。
★追完請求等
買主は売主に対して、完全な履行を図るため、売主の帰責事由の有無を問わず、修補などの請求(追完請求)を行うことができます。また、追完請求をしても、売主の履行の見込みがない場合は、代金の減額を請求(代金減額請求)することができます。
ただし、契約不適合について、買主に帰責事由がある場合は、売主に追完請求等を求めることはできません。
★債務不履行による契約解除
買主は、契約不適合(売主の債務不履行)があった場合には、売主の帰責事由の有無を問わず、基本的に、契約を解除することができます。具体的には、以下のとおりです。
ただし、契約不適合について、買主に帰責事由がある場合は、売主に契約解除を求めることはできません。
・・・など |
買主は、売主に催告することなく、契約を解除できる。 | |
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買主は、売主に催告の上、契約を解除できる。 |
★損害賠償の請求
買主は、契約不適合(売主の債務不履行)があった場合には、追完請求等のほか、売主に損害賠償を請求することができます。
なお、契約不適合について売主に帰責事由がない場合には、買主は損害賠償請求を行うことはできません。
※ 売主に帰責事由がないことの立証責任は売主にあります。
★契約不適合の責任追及期間
契約不適合が種類・品質に関するものの場合には、買主は、契約不適合があることを知ってから1年以内にその旨を売主に通知しなければ、契約不適合を理由として、追完請求・代金減額請求・契約の解除・損害賠償請求をすることができなくなります。また、この請求権は、権利行使ができることを知った時から5年、目的物の引渡し時から10年で時効消滅します。
★契約不適合の責任追及期間の特約
上記の契約不適合の責任追及期間について、特約が定められている場合には、それに従うことになります。売主より、「売主は契約不適合責任を負わない」とするものも含め、特約を置くことを求められることがありますが、当該特約を定めた場合には、民法の規定によらずその特約に従うことになります。
当該特約は、契約不適合に関する売主・買主のリスクの分担を、契約により定めるものとなりますので、買主は分担するリスクを理解・承知した上で売買契約を締結する必要があります。
ただし、契約不適合を売主が知りながら買主に告げなかった場合は、免責の特約があっても、売主はその責任を免れることはできません。また、宅建業法、品確法、消費者契約法において、特約が無効になる場合がありますので、注意が必要です。
★改正前民法と改正民法の買主の救済方法の比較
項 目 | >改正前民法(令和2年3月31日以前) | >改正民法(令和2年4月1日以降) |
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瑕疵・契約不適合の定義 | 瑕疵:目的物が、契約の内容において、通常有すべき性状・性能を有していないこと。 | 契約不適合:引渡した目的物が、種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合していないこと。 |
売主の責任 | 目的物に、「隠れた瑕疵」があった場合、瑕疵担保責任を負う。 | 目的物に、「契約不適合」があった場合、契約不適合責任を負う。 |
買主の救済要件 | 「瑕疵」について、買主が善意無過失である場合 | 「契約不適合」について、買主に帰責事由がない場合(ただし、損害賠償請求を除く。) |
買主の救済方法 |
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売主に対する請求期間の制限 | 「隠れた瑕疵」を知った時から1年以内、もしくは、権利行使できる時から10年以内に請求しなければならない。 | (種類、品質に関する契約不適合の場合) 「契約不適合」を知った時から1年以内に通知し5年以内に請求、もしくは、権利行使できる時から10年以内に請求しなければならない。 |
2 改正民法(令和2年4月1日施行)施行前の売買契約の取扱い
売買などの契約については、改正民法の施行日(令和2年4月1日)より前に締結された契約については改正前民法が適用され、施行日後に締結された契約については改正民法が適用されます。(附則34条)
したがって、令和2年3月31日以前に締結された売買契約は、改正前民法の規定が適用されますので、売買物件に瑕疵(契約不適合)があった場合の買主の救済方法は、旧民法の瑕疵担保責任に規定によることになります。
3 宅建業法、品確法、消費者契約法における特別の定め
宅建業法 |
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住宅の品質確保の促進に関する法律(品確法) |
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消費者契約法 |
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4 「アフターサービス」との違い
責任の性質 | 責任の対象 | 責任を負う期間 | |
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契約不適合の担保責任 | 売主の債務不履行責任 | 売買契約締結当時の目的物の契約不適合(ただし、契約不適合について買主に帰責事由がないこと) | 特約がなければ、買主が不適合を知ってから1年(請求権は、知った時から5年、もしくは引渡しから10年で時効消滅) |
アフターサービス | アフターサービス責任を負う旨の約束をしたことにより売主が負う約定責任 | 契約で定められた期間内に生じた瑕疵・欠陥 | 部位別に1年から10年の期間が定められている |
5 売主が倒産した場合の瑕疵担保責任は
購入した土地・建物に「契約不適合」があったとき、買主は売主に対し、担保責任に基づき修補等の追完や代金減額の請求が、また、売主に帰責事由がなかった場合を除き損害賠償の請求ができます。その「契約不適合」により、購入した目的を達することができないときには、契約を解除することができます。
しかし、買主に、売主に対する追完・代金減額や損害賠償を請求する権利があっても、売主が倒産していたり、売主に損害金を支払う資力がないときには、賠償を受けられなかったり、受けられても損害金の一部だけだったりと、十分な被害回復が図れないことがあります。耐震偽装事件ではこの買主消費者の被害回復が問題となりました。
そこで国は、売主業者の瑕疵担保責任※履行を確実に確保するために、新築住宅について、①保証金の供託又は②責任保険契約のどちらかの措置を講ずることを義務付けた「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下、「住宅瑕疵担保履行法」といいます。)を制定しました(平成19年5月30日公布、平成21年10月1日施行)。
※ 住宅瑕疵担保履行法は、「種類または品質に関して契約の内容に適合しないこと」を「瑕疵」と定義しています。
★新築住宅は「住宅瑕疵担保履行法」により保護される
新築住宅の売主には、瑕疵担保責任の履行確保措置が義務付けられています。
<瑕疵担保責任の履行確保措置>
「保証金の供託」又は「責任保険への加入」
- ・対象となるのは新築住宅です。
(平成21年10月1日以降引渡しのものが適用になります) - ・対象となるのは、住宅品質確保法で定める10年の瑕疵担保責任の範囲である「構造耐力上主要な部分」と「雨水の侵入を防止する部分」です。
※新築住宅とは、①建築工事の完了の日から起算して1年を経過しない住宅で、②まだ人の居住の用に供したことのないものをいいます。
※万一、売主が倒産等により瑕疵の補修ができなくなった場合でも、保証金の還付又は保険金により必要な費用が支払われます。